遮熱塗料はアリ?ナシ?塗料メーカーが解説!

塗料について
遮熱塗料はアリ?ナシ?塗料メーカーが解説!

「夏場の暑さ対策になりますよ」と、塗装業者に屋根や外壁の塗装に遮熱塗料をすすめられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

遮熱塗料がどのような塗料なのかを説明する情報はインターネット上でも多く見られますが、最終的に選ぶべきかどうか、結局なにを採用の判断基準にすれば良いのか、分からない方も多いのではないでしょうか。

今回は遮熱塗料について、製造する塗料メーカーの視点から解説いたします。

遮熱塗料を選ぶにしても選ばないにしても、ご自身が納得のうえ後悔のない外壁塗装をしていただきたいからこそ、少しでもその判断材料にしていただければ幸いです。

遮熱塗料の需要推移

まず、建築における遮熱塗料(高日射反射率塗料)は、現在どの程度採用されているのでしょうか。
日本塗料工業会が公開している遮熱塗料の出荷量推移をみてみましょう。

遮熱塗料(高日射反射率塗料)は、東日本大震災以降の省エネブームと、それを推奨する自治体の助成金や補助金に後押しされて、企業のほかに戸建てでも積極的に採用されることが多くなっていきました。

ところが、建築用途では2015年度から早くも横ばいとなり、2019年に微減に転じており、速報値にはなりますが2020年度はさらに10%程度減少する見通しです。

夏の暑さ対策や省エネに寄与する高付加価値塗料であれば、もっと出荷量が伸びてもいいはずですが、効果が期待できる屋根塗装においても遮熱塗料のシェアは依然として低く、近年では減少傾向にさえあるのです。

遮熱塗料が減少傾向にある理由

戸建用の濃色系遮熱塗料が市場に投入されて以降、各メーカーの遮熱塗装のラインナップは増え、省エネ効果の高い工場や倉庫だけでなく戸建てにおいても一気に採用率が高くなりましたが、なぜ今伸び悩んでいるのでしょうか。

遮熱塗料が抱える不安

その大きな要因に言及している、塗料・塗装専門紙「ペイント&コーティングジャーナル」の記事を引用します。

戸建て住宅においては、屋根裏に断熱材が入っていること、開口部が多いことから遮熱の効果が実感しにくいことが指摘されているが、懸念を強めているのはむしろ遮熱塗料の性能に対する見方だ。以前から遮熱塗料の取材を重ねる中で塗装ユーザーから異口同音に聞かれるのが、遮熱塗料は「変退色が早い」という指摘。
住宅向けに濃色タイプの遮熱塗料が投入され始めた時期に頻発した現象だが、配合顔料の耐候性が異なることによって起きた変色トラブルは、その後のユーザーの製品選択に大きな影響を与えた。

ペイント&コーティングジャーナル 2021.03.24 屋根用・遮熱塗料特集
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「変退色が早い」とはどういうことなのか、詳しく説明していきます。

遮熱塗料の原理

一般的な遮熱塗料は、さきほどの記事の通り、配合する顔料によって太陽光の赤外線領域の日射反射率を高め、塗膜の温度上昇を抑えることで遮熱性能を発揮しています。

「顔料の配合だけで遮熱塗料にできるのなら、すべての建築用塗料を遮熱塗料にしたら良いのでは」と考える方もいるかもしれません。

しかし、安易にそうはできない大きな理由があります。

遮熱塗料はどのようにして作られているのか

塗料のどんな色にもほぼ使われる基本的な顔料のひとつにカーボンブラック(黒顔料)があります。

カーボンブラックは非常に耐候性が高く退色(色あせ)にも強い反面、他の着色顔料に比べて太陽光の赤外線領域のほとんどを吸収し、熱に変えてしまうという特徴を持っています。

遮熱塗料の技術は、この熱を発生させやすいカーボンブラックを「使用しない」で調色する技術と言えます。

つまり、カーボンブラックの代わりに複数の顔料を混ぜ合わせることで黒に近い色を表現したり、もしくは赤外線領域の反射率が比較的高い別の特殊黒顔料を使用して濃彩色を表現したりすることで、日射吸収率の低い(=日射反射率の高い)塗料を製造しています。

カーボンブラックを使用しないことによる弊害

今述べたように、遮熱塗料はカーボンブラックを使用せずに調色する技術です。
その結果、どうなるのか。

前回、色(顔料)による耐候性の差によって、色あせのスピードが異なることを解説しました。

つまり、耐候性の異なる複数の顔料を混ぜ合わせた結果、耐候性の低い顔料から劣化していくため経年で思わぬ色調に変化してしまったり、特殊な黒顔料を使ってもカーボンブラックほどの耐候性がないために変色や退色が早くなってしまうのです。

耐候性が高く退色にも強いカーボンブラックを使用しないことの弊害が、さきほど紹介した記事のような指摘を生む結果になっているのです。

そのため、遮熱塗料でクレームなどの痛い目にあった塗装業者が遮熱塗料の提案に二の足を踏んでおり、施主から要望があった場合にのみ対応するという消極提案にとどまっているのです。

遮熱塗料の不安を一挙に解決する方法

ここまでお読みになられた方の多くが「つまり、遮熱塗料はナシってことね」と感じてしまったかもしれません。

ですが、遮熱塗料は屋内の温度上昇を抑制し、省エネ効果が期待できる可能性があるのは事実です。

とはいえ遮熱性能と引き換えに塗膜が早々に変色退色してしまったり、劣化したり、汚れてしまったりするのでは、遮熱塗料を選ぶ意味がありません。

しかし、メーカー側も製品づくりを通じて環境対応や省エネに寄与する責務を負っています。

そこで、遮熱塗料でも耐候性の低下や変色退色のリスクを軽減できる、オススメの工法があります。

遮熱塗料を「保護コーティング」して耐候性を向上!

これまで、標準的な住宅の塗装工程というと「下塗り+中塗り+上塗り」の3工程でしたが、その上塗り塗膜を透明なコーティング材で保護し、塗膜の耐候性を延ばす画期的な住宅塗装工法が主流になりつつあります。


この方法であれば、遮熱塗料の性能やリスクを軽減するだけでなく、その寿命を10年程度向上させることができます。

遮熱の省エネ効果と耐候性・低汚染性の維持どちらも譲れないという方に大変おすすめです。

保護コーティングについては、以下の記事で詳しく紹介しています。

おわりに

遮熱塗料について、その原理や問題点、リスクを低減できるおすすめの施工方法など、塗料メーカーの視点から解説してきました。

今回紹介した遮熱性以外にも、弾性、意匠性、低汚染性、環境対応など、さまざまな機能性を謳う塗料が存在します。
それらの塗料の中には、塗料本来の耐候性と引き換えに付加価値が付与されているケースが少なくありません。

塗料は、まず本来の耐候性が大前提になければならないと考えています。
遮熱塗料という耳触りの良さから、安易にあらゆる塗料を遮熱調色をしてしまうことは避けなければなりません。

また、以前にも幾度となく述べましたが、機能性であれ耐候性であれ、それらは塗装仕様書の定める適正な施工を行ってこそ正しく発揮されるものです。

もし遮熱塗料での塗り替えを検討される際には、遮熱塗料にについて正しい知識を持ち、適切な施工を行える塗装業者にお願いすることをおすすめします。