解体や改修を行う際に、石綿(アスベスト)の事前調査と報告が義務付けられてから3年が経過し、2023年10月からは調査にあたり建築物石綿含有建材調査者などの資格要件が必要となりました。
万が一、解体や改修にあたり調査を怠ったり虚偽の報告がなされていたりした場合、大気汚染防止法に基づき30万円以下の罰金が科せられることになります。
塗装業者から提案された見積書をお持ちの方がいましたら、改めて見積書をご覧ください。
見積書の項目に「石綿事前調査」はあったでしょうか。調査の説明や結果の報告は受けたでしょうか。
もし調査も報告もなされない場合、作業者や居住者だけでなく、近隣住民までも石綿のばく露のリスクにさらされることになります。
今回は、法改正後の外壁塗装における事前調査実施の現状と、その義務や責任の所在について解説します。
事前調査と報告の義務
石綿事前調査義務化の概要を簡単にまとめると以下の通りです。
- 解体・改修工事を行う際には、その規模の大小にかかわらず工事前に解体・改修作業に係る部分の全ての材料について、石綿含有の有無の事前調査を行う必要があります。
- 事前調査は、設計図書等の文書による調査と、目視による調査の両方を行う必要があります。
- 事前調査は、建築物石綿含有建材調査者などの 一定の要件 を満たす者が行う必要があります。
- 事前調査の結果の記録を作成して3年間保存するとともに、作業場所に備え付け、概要を労働者に見やすい箇所に掲示する必要があります。
- 請負金額が100万円以上の改修工事の場合、事前調査の結果を労働基準監督署に電子システムで報告する必要があります。
2006年には石綿を0.1重量パーセントを超えて含有する建材の使用が全面禁止となったため、2006年9月1日以降に着工した建物については、その証拠(登記簿など)をもって事前調査終了とすることができます。
しかしそれ以前に着工した多くの建物については、解体はもちろんのこと、改修工事をするにあたっては少し穴をあけるだけの工事でも事前調査と報告が必要となります。
例えばエアコンを設置するだけでも、穴をあけたりビス留めしたりといった作業を伴うため、サイディング等の外壁材、内部の石膏ボード、壁紙(糊)などの建材が調査の対象となります。
有資格者による調査後、施工業者は発注者(施主)へ調査の結果を報告し、さらに全体の請負金額が100万円以上(税込み)の工事となれば所轄の労働基準監督署へも報告しなければなりません。
外壁塗装工事における調査と報告の実態
結論から言うと、外壁や屋根の塗装においても事前調査と報告は必要であり、ハウスメーカーや大手リフォーム会社ではすでに資格を取得して事前調査と報告を実施しています。
「塗装工事は穴をあけたりせず上から塗るだけなのに?」と思う方も多いでしょうが、塗装前には高圧洗浄を行い、部分的なケレンやひび割れ補修、樋金具の交換などを伴う工事がほとんどだからです。
しかし現状では、事前調査もしかるべき報告もなされずに完工を迎える現場が、特に戸建ての塗り替え工事において少なからず存在しています。
石綿事前調査が行われない要因
石綿事前調査が行われない大きな要因が、調査費用の負担です。
事前調査は、図面などによる書面調査と、現地で修繕履歴や図面との相違、建材の状態などを確認する目視作業、また場合によっては建材を採取しての分析調査が必要となります。
しかしそのために必要な調査経費を見積書に計上すると、調査をしない前提の競合施工業者よりも当然見積金額が高くなってしまい、成約の障害となってしまうケースがあります。
施工業者が罰則のリスクを抱えながらも、周囲に流されて事前調査と報告の徹底がなされていない大きな要因となっています。
また、調査はするものの、施主の協力が得られないなどの理由で設計図書が入手できなかったり、分析費用の負担もかなわなかったりした場合は、石綿を含有しているかどうか判断できないことも多くあります。
調査者は何の根拠もなく「石綿含有なし」と報告することはできないため、そのほとんどは石綿含有と「みなし」て報告することになります。
そうなると現場に石綿作業主任者を常駐させ、必要な飛散防止措置や作業者のばく露防止措置の必要があるため、やはり手間や工期延長、費用負担となってしまいます。
この石綿事前調査と報告が不備なく適切に行われるためには、施主の理解と配慮が大きなカギとなっているのです。
施主に求められる義務
仮に必要な調査や報告を怠った場合、施工業者の罰則規定はありますが、発注者(施主)には直接的な罰則はありません。
しかし施主側には、設計図書や確認申請書類といった調査に必要な情報提供のほか、石綿除去に関わる費用の負担や工期への配慮が義務付けられています。
もしも事前調査に不備があり、必要書類が未届けとなっていた場合には、施主の責任も問われる可能性がありますので十分に注意が必要です。
石綿事前調査を円滑に進めるためには
適法な工事を行う業者を選び、作業員や居住者、周辺住民を石綿のばく露リスクにさらさないためにも、次の3つのポイントを意識しましょう。
- 見積もりの段階で石綿調査費用が計上されているか確認する。
- 設計図書、確認申請書類、修繕履歴などを適切に情報提供する。
- 施工業者が法令を遵守して工事ができるよう、費用や工期に配慮する。
また、厚生労働省、環境省、国土交通省の連名で施主向けのお知らせも配布されていますので、ぜひ目を通しておくことをおすすめします。
厚生労働省、環境省、国土交通省「お住まいの住宅の解体・改修をご検討の皆さまへ」(ご案内PDF)
施工業者は事前調査の必要性を施主にしっかりと説明しなければなりませんが、施主側も調査を断ったり、必要な配慮を怠ったりすれば、いたずらに「みなし」で石綿含有と報告することになり、資産価値の低下につながるうえ、将来の解体時に余計な作業と高額な費用負担がのしかかってくることも考えられます。
おわりに
いま、塗り替え工事を控えているのであれば、見積もりに石綿の事前調査費用が計上されているか確認してみましょう。
もしも、調査の説明がないばかりか、有資格者による調査報告に消極的な施工業者であれば、コンプライアンス(法令順守)意識が低いと言わざるを得ません。
現在、塗装業者は、足場の墜落防止措置の強化(本足場の義務化)や産業廃棄物の規制強化、36協定による労働時間の上限規制の適用など、さまざまな課題を抱えています。
なかでも、石綿事前調査と報告については業務や管理が煩雑なうえ、まだあいまいな部分も多くモデルケースが確立されていないため、戸惑いながらも周囲に足並みを揃えているといった感があります。
しかし、石綿事前調査に限らずそれぞれの関係者が責務を果たさなければ、労働災害や健康被害、環境汚染を招くことになり、将来的に大きな代償を払うことになります。
「知らなかった」で済むものではありません。「まだ大丈夫だろう」と、他人事と捉えるのではなく、国や自治体、メーカー、施工業者、施主、それぞれが積極的に社会的責任を果たすことで、持続可能な未来を実現する時代がきています。