【塗料メーカーが解説】塗料の促進耐候性試験・耐用年数・耐候性とは

【塗料メーカーが解説】塗料の促進耐候性試験・耐用年数・耐候性とは
塗料について

塗料の促進耐候性試験・耐用年数・耐候性を塗料メーカーが解説

「一度外壁塗装を行うとどれくらいもつのか」「次の塗り替え時期はいつ頃になるだろう」
皆さんも気になるところだと思いますが、それを正確に把握することは難しいです。

ですが、目安となる基準があります。
それが塗料の耐候性です。

ほとんどの塗料が耐候性の根拠として促進耐候性試験結果をカタログ等に掲載しており、また、メーカーによっては試験結果に基づいた「期待耐用年数(どのくらいもつのか)を公示しています。

促進耐候性試験はその塗料の価値に直結するものですが、その試験方法や基準はメーカーや製品によってさまざまです。

また、促進耐候性試験の結果(グラフ)は専門知識のない消費者向けにわかりやすく簡素化されていますが、なかには評価対象がわからないものや、グラフ自体が曖昧なものも見受けられます。

今回は、「促進耐候性試験」とはどのような試験か、また「期待耐用年数」の意味、そして「耐候性」という言葉の定義について解説いたします。

塗料の「耐候性」とは? 「耐久性」と一緒?

ひとえに耐久性といっても、その素材や材料、目的や性質などによって試験方法、調査方法、計測方法など千差万別です。
では、「屋外で使用する建築用塗料」の耐久性とは、どのような定義なのか?

建築用塗料の劣化を引き起こす最大の要因は太陽光の紫外線です。
また、温度、湿度、降雨、大気汚染物質なども塗膜の分子構造を破壊し、色あせなどの色調変化やチョーキングをもたらします。

日本産業規格(JIS規格)では、耐候性を以下のように定義しています。

「耐候性とは、材料を光、風、雨などの屋外条件下で、暴露した場合の耐久性のこと(JIS K 6900)」

つまり、建築用塗料は「耐候性」を耐久性の大きな指標としています。
ですが、長期間試験体を屋外にさらし続けて性能を確認するのはとても時間がかかります。

そこで、太陽光、温度、湿度、降雨などの屋外環境条件を人工的に再現して試験体の劣化を促進させ、製品・材料の寿命をある程度予測できるようにした試験が「促進耐候性試験」になります。

主な耐候性試験の種類

促進耐候性試験機はいくつかの種類があり、試験時間の算出方法などが異なります。

また、各メーカー今でも製品によっては「屋外曝露試験」も併用して行っています。
それぞれの耐候性試験をご紹介します。

屋外暴露試験

試験体を実際に自然環境下にさらして状態の変化を確認する方法です。
日本列島は南北に長く、内陸部、降雪地帯、沿岸部、沖縄など地域によって環境条件はバラバラです。

工業材料や工業製品の暴露試験を行う(財)日本ウエザリングテストセンターでは
 ・千葉県銚子市(日本の標準的な気候)
 ・沖縄県宮古島(高日射、高温多湿、塩害など国内で最も過酷な環境)
 ・北海道旭川市(低温、積雪のある環境)
で暴露試験をしています。

例えば宮古島の場合、促進倍率は実曝(実際の屋外での暴露)なので「1」ですが、紫外線量だけで見れば、本州内陸部の3倍以上に相当すると言われています。

試験体の多くは45度の角度で設置されているため、屋根や外壁に換算する場合も日射角度の考慮が必要です。

サンシャインウェザーメーター(SWOM)

60年以上の試験実績の歴史がある標準的な試験方法です。
促進倍率は屋外曝露の数倍~十数倍程度です。

塗料やプラスチックの耐久性の向上に伴い、もっと促進倍率の高い試験機も登場していますが、それまでに蓄積された過去のデータとの対比が容易であることもあり、今でも根強く使用されています。

キセノンランプ(XWOM)

他の試験機は紫外線強度の非常に高い光源を使用して、試験体を劣化させることに特化しているのに対し、XWOMは自然光に最も近い光源の試験機です。

キセノンランプでの耐候性試験は、屋外暴露の10~30倍程度の促進倍率です。

その自然環境の再現性と信用性の高さから、JIS A 6909(建築用仕上塗材)での耐候性区分に採用されています。

JIS A 6909による耐候性区分

JIS A 6909では、キセノンランプ法(JIS K 5600-7-7)で、2500時間の照射で光沢保持率80%が最高区分(耐候形1種)になります。

公共工事で仕上げに複層塗材を施工する場合、耐候形3種の指定でアクリル塗料、2種でウレタン塗料、1種でシリコン塗料を使って仕上げる場合が多いですが、実は耐候形1種の基準は決して高いものではなく、ウレタン塗料で1種を取得しているメーカーもあります。

そのため、より耐候性の高いフッ素や無機塗料となるとJIS A 6909の区分を大きく超えてしまうため、効率化を考慮するとさらに促進倍率の高い機器が必要であることがわかります。

メタルハライドランプ(スーパーUV、SUV)

他の促進機に比べ促進倍率が桁違いであるため、無機塗料など高耐候塗料の促進試験に有効です。

しかしランプの照射強度が極めて高く、他の試験方法にくらべて試験品質の若干のバラツキは避けられません。
また、試験スペック(設定)の違いによる不統一も、メタルハライドランプの規格化が進まない要因となっています。

促進倍率は屋外曝露の100倍程度ですが、照射強度やサイクルの設定によって、促進後の光沢保持率や色差はそれ以上の倍率となって現れます。

促進耐候性試験をみるポイント

促進耐候性試験はその機種やメーカーはもちろん、試験する側が強度や試験サイクルなどを任意で設定可能であるため、それらを統一して正確に比較することは実は容易ではありません。

その結果の評価項目も、色差(⊿E、⊿L)、光沢保持率(%)、その他劣化具合、とメーカーや製品により様々です。

例えば「色差」の場合は、顔料そのものの種類や耐候性に大きく依存しますが、外装用塗料で評価対象とされる「光沢保持率」では、塗膜組成や樹脂そのものが大きく関わるため、色調や試験体の作成方法でもその試験結果は異なってきます。

そこを理解したうえで、「使用する機種は何か」「比較対象は何か」「評価の対象は色差なのか光沢保持率なのか」などを明確にすれば、塗膜の性能を相対的に評価する有効な目安と言えます。

促進耐候性試験グラフの見方

それでは一般的な促進耐候性試験のグラフを見てみましょう。

まず、使用している促進試験機は促進倍率の高いスーパーUVテスターです。
そして建築用塗料の場合、評価の対象となるのは光沢保持率(縦軸)です。
塗膜の分子構造の破壊は「艶落ち」となって表れるからです。

試験片作成時の鏡面光沢度(JIS K 5600)を計測し、それを100%とします。
促進試験時間(横軸)の経過によってどのくらい艶が落ちていったかを折れ線グラフで表しています。

JIS A 6909の耐候形(1種~3種)基準となっているのは光沢保持率80%です。
ウレタン塗料で200時間余り、シリコン塗料でも400時間で80%まで艶が落ちていることがわかります。

40%~30%まで落ちていくと次第にチョーキングが始まってきます。他の塗料と比較することで、その塗料がどのくらいの耐候性をもっているかが相対的に把握しやすいかと思います。

期待耐用年数の出し方

では、各塗料メーカーが公示している「期待耐用年数」とは、このグラフのどこを見ればわかるのでしょうか。

試験結果を耐用年数に換算するには、試験時間と促進倍率から求めます。
促進試験結果を公表しているメーカーの間でも目安としている倍率は異なりますが、スーパーUVテスターの場合はおおむね40時間の試験を実曝1年(本州内陸部)に換算しているグラフが多いようです。

80%まで光沢を保持できた時間から、1年に相当する時間(この試験の場合40時間)で割ると
 ・シリコン塗料 400時間÷40 = 10
 ・フッ素塗料 600時間÷40 = 15
となります。
この数字が今回の試験結果から導き出された「期待耐用年数」となります。

期待耐用年数の問題点

キセノンランプはJISの耐候形区分にもあるため、多くの塗料メーカーが採用しています。
塗料のカタログなどでは300時間を約1年相当としているカタログが多いようです。

ですが、放射照度の差の問題があります。
JISのキセノンランプ法では、放射照度は60~180W/m²(300nm〜400nm:JIS K 5600)と規定されています。

弊社は最大値である180W/m²で促進させていますが、これをもし60W/m²の放射照度で試験すれば……おのずとグラフは伸びていくということが想像できるかと思います。

そのことから、同じ300時間=約1年相当と記載してるキセノンランプの結果があったとしても、各社格塗料単純に横並びに比較できないことがわかります。

期待耐用年数の考え方

ここまで説明しましたように、期待耐用年数という概念は各塗料メーカーで試験設定や算定方法が異なります。

さらに、促進耐候性試験結果そのものですら、あくまで机上テスト値であり、実際の塗装は住宅の環境条件や方角、日射角度、現場の施工方法、色調によっても大きく変わります。

引き合いに出して良いものかわかりませんが、自動車のカタログ燃費のようなもので、使われ方次第によることろが大きいと言えます。

ですので、耐用年数は保証値ではなく、あくまでも施主様にわかりやすく伝えるための、ひとつの「目安」として考えていただければと思います。

もちろん耐用年数が経過したらすぐに塗り替えが必要ということでもなく、ライフプランや他の住宅修繕のタイミング等、総合的に考慮して判断するのがよいかと思います。

おわりに

外壁塗装の塗料のカタログで使われる「促進耐候性試験」の試験内容や種類、「期待耐用年数」「耐候性」の言葉の意味について紹介しました。

塗り替え工事は大きな出費であることから、施主様から耐用年数の根拠や公的機関での試験結果を求められるケースがあります。

現在、弊社では無機塗料の促進耐候性試験を社外監修で実施することはありません。
それは、弊社製品はもともと戸建改修用の塗料でありJIS A 6909の塗装仕様に合わないこと、また、JIS A 6909の耐候形区分をはるかに超えていること等が理由として挙げられます。
他社塗料メーカー様も自社試験にて表示されているのは同様の理由と考えられます。

今後、高促進倍率であるスーパーUVテスターが建築塗料仕上材のJIS規格内で採用・整備され、試験スペックの統一がなされた場合には、必要に応じて社外で実施することも世のためには有用と考えています。