ここ数年、新しい塗料として注目され人気の「ラジカル制御形塗料」
住宅塗装のお見積を取られた方の中にも、塗装業者さんから「ラジカル制御形塗料」のご提案や説明を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事は、そのお見積を依頼するその前に、ぜひとも目を通していただきたい内容となっております。
ラジカル制御形塗料とはどういった塗料なのか、そもそも「ラジカル」とは何か?人気の理由は?
さらには、大人気の裏側にある大きな「誤解」や「事実」まで、塗料メーカーがわかりやすくご説明いたします。
目次
「ラジカル」とは
ラジカルとは塗膜劣化の要因となる劣化因子のことです。
紫外線が外壁や屋根の塗料(塗膜)に当たると、この劣化因子「ラジカル」という物質が生成されます。
ラジカルは塗料の樹脂を破壊するため、 塗膜劣化の大きな要因となっています。
ラジカル制御形塗料の特徴
このラジカルの発生をできるだけ抑制し、塗装を長持ちさせるための技術を取り入れた塗料のことを、ラジカル制御形塗料といいます。
ラジカル制御形塗料の特徴は大きく次の2つになります。
特徴① ラジカル制御レベルの高い酸化チタンを塗料に配合
酸化チタンは、塗料の白色を出すために用いられている白色顔料のことです。
安定性や着色力に優れているので、塗料以外にも工業、自動車、建築から、プラスチック、紙、化粧品など、白いものから色のついたものまで、さまざまな分野・製品で活用されています。
すぐれた白顔料である酸化チタンですが、紫外線に当たるとラジカルを発生し、そのラジカルが有機物の劣化を促進させてしまうという性質をもっています。
そこでラジカル制御形塗料では、アルミナ、ジルコニア、シリカ、有機物等で「バリアのように」コーティングした酸化チタンを配合して、ラジカルの発生を抑えます。
特徴② 紫外線吸収剤、光安定剤の添加
紫外線吸収剤は塗膜の劣化要因となる紫外線を吸収して、無害な熱エネルギーに変換して放出する働きを持っています。
光安定剤は、紫外線吸収剤が防ぎきれずに発生してしまったラジカルを封じ込める働きを持っています。
2つを併用することで高い相乗効果を発揮して、効果的に塗膜の劣化進行を抑制します。
塗料のパンフレットなどでは紫外線吸収剤は「UVA(UV absorberの略)」、光安定剤は「HALS(Hindered Amine Light Stabilizerの略)」と表記されることが多いです。
ラジカル制御形塗料6つの「誤解」と「事実」
各塗料メーカーの研究・開発努力もあり、近年では「大人気」や「外壁塗装のトレンド」として、インターネット上でもたくさんのラジカル制御形塗料の記事を見るようになりましたが、実は誤解を招くような間違った情報が氾濫しています。
1. 「ラジカル塗料」ではない
塗装業者さんのブログやコラムなどで、「ラジカル塗料」という名前で紹介されているのを目にしたことはないでしょうか。
これではまるで塗膜劣化の要因であるラジカルを自らが発生するとんでもない塗料のように感じませんか?
揚げ足を取るつもりはありませんが、ラジカルを抑制・制御する機能を持つ塗料ですので、正しい名称は「ラジカル制御形塗料」になります(制御型と表記するメーカーもあり)。
具体的には「ラジカルを抑制できる酸化チタンを白顔料として使用している塗料」のことになります。
2. 塗料の種類(グレード)ではない
塗料の耐候性を比較した下のようなグラフをご覧になったことはないでしょうか。
このグラフはお施主様にとって、一見とてもわかりやすいグラフですが……正しくありません。
その理由を今からご説明いたします。
ウレタン、シリコン、フッ素などは、塗料の主成分である「樹脂」のことを指しています。
対してラジカル制御形塗料は、先程も言いました通り「ラジカルを抑制できる酸化チタンを白顔料として使用している塗料」のことですので、樹脂の主成分に関わらず、シリコン樹脂塗料でもフッ素樹脂塗料でもラジカルを抑制できる酸化チタンを配合すれば「ラジカル制御形塗料」にすることが可能です。
たとえば、弊社の無機塗料製品もラジカル制御形塗料です。
ですので、このような塗料樹脂のグレード比較のグラフの中にラジカル制御形塗料を入れることは「間違い」です。
3. 「シリコン以上フッ素未満」とは限らない
ネット上で見かける多くのグレードの図が、シリコン樹脂塗料とフッ素樹脂塗料の間にラジカル制御形塗料を位置付けています。
これは、ラジカル制御形塗料が生まれた(台頭しはじめた)背景が関係していると言えます。
2012年、大手塗料メーカーがアクリル樹脂塗料にラジカル制御形酸化チタンを使用した塗料を発売しました。
「ラジカル制御」という、それまでに馴染みがなく、アクリル樹脂塗料なのにシリコン樹脂塗料を超える耐候性を謳った、安価で高性能な塗料の登場は、塗装業者さんにとっても非常に提案しやすいこともあり、ロングセラーになりました。
「シリコン以上フッ素未満」というラジカル制御形塗料の(誤った)位置づけは、ここから来ています。
4. ラジカル制御形塗料=「長持ち」とは言い切れない
ウレタンでもシリコンでもフッ素でも「ラジカル制御形塗料」にすることができる。という意味はここまでお読みになってご理解いただけたかと思います。
ですが、ラジカル制御技術は塗料の耐候性を向上させるための数ある手法の中のひとつにすぎません。
塗料の耐候性というのは、樹脂や顔料、反応や配合、さらには塗装業者さんの施工方法など様々な要素が複合的に関係してきます。
ラジカル制御塗料ならワンランク上の「長持ち」が保証される。とは言い切れません。
5. 実は、すべてラジカル制御形塗料?!
酸化チタンは優れた白顔料として、世の中の白い製品(色付きの製品も)には欠かせない存在です。
そのような重要なものが、塗料以外の分野ではラジカルを抑制できる酸化チタンを使わずにラジカルの発生を放置し続けている。とは考えにくいですよね。
今日のあらゆる酸化チタンすべてが、耐候性向上や安定性のために、先に述べたアルミナ、ジルコニア、シリカ、有機物等でコーティング処理されています。
つまり、屋根や外壁に使用する塗料で、ラジカルを抑制する酸化チタンを「使用しない」わけがないのです。
6. ラジカル制御形塗料といっても「ピンきり」?!
酸化チタンは処理方法の違いや結晶構造の違いからとても多くの銘柄が生産されており、塗料メーカーはその中からコストや耐候性など様々なバランスを考えて採用しています。
同じくラジカル制御形塗料には欠かせない光安定剤(HALS)も、様々なメーカーで開発製造されています。
世の中のあらゆる商品・製品がそうであるように、ひとえに「ラジカル制御形塗料」といっても、その性能はピンきりです。
酸化チタンやHALSの銘柄の違いや配合量で、耐候性は大きく変わってきます。
おわりに
今回は人気のラジカル制御形塗料について紹介していきました。
塗料メーカーの視点から詳しく解説したことによって、ラジカル制御形塗料に少しネガティブな印象を持たれてしまった方もいるかもしれません。
たしかに、新たな塗料として注目されるがゆえ、販売者目線の都合の良い解釈で紹介された記事も少なくありません。
ですが、ラジカル制御技術は、より塗膜の寿命を延ばすために、弊社はもちろん各塗料メーカーが研究を重ね、現在も進化し続けているすぐれた技術であることは間違いありません。
きちんと塗料を理解し、あなたの住まいに合った塗料を自身で選んで、満足のいく外壁塗装を目指しましょう。