水性塗料と油性塗料の特徴やメリット・デメリットについては、すでに多くのサイトで取り上げられています。
ですがそれらの情報を閲覧しても、どちらを選べば良いのか決定的な判断材料を得るまでには至らなかった方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず、水性塗料、油性塗料それぞれにどちらにも取って代えがたい一長一短や適材適所があるため、結局は施工業者や職人の経験と判断、そして施工品質が工事の成否を左右するのです。
もし、水性と油性それぞれが持つデメリットをすべて解消し、かつ双方のメリットだけを余すことなく発揮できる三つ目の選択肢があるとしたら……!?
消費者や施工業者が抱える多くの迷いが解決できることは想像に難くありません。
それを実現するのが、溶剤(油)の中でも水に溶けやすい(混ざりやすい)性質を持った「水溶性溶剤」です。
水性か油性かといった使い分けを超えて塗装ができ、作業性、仕上がり、耐候性といった性能面でも抜きんでたパフォーマンスを発揮できる水溶性溶剤塗料は、水性、油性に次ぐ三つ目のハイブリッドな選択肢として今注目されています。
今回は水溶性溶剤とはどういったものなのか、そして水溶性溶剤塗料の優れた特長について紹介いたします。
目次
第三の選択肢、水溶性溶剤塗料
水溶性溶剤とは
水溶性溶剤という言葉をはじめて耳にしたという人も多いのではないでしょうか。
水溶性溶剤は有機溶剤に分類されますが、水に溶けやすい(混ざりやすい)性質を持っています。その特性を活かし、シャンプーや化粧品、また近年普及している電子タバコのリキッドなど、わたしたちの身の回りのさまざまなものに使用されている比較的身近な素材です。
水溶性溶剤塗料とは
水溶性溶剤は一般的な水性塗料にも使用されていますが、主に成膜助剤などの添加剤として微量に含まれていることが多く、当然ながらその作業性や塗膜性能はいわゆる水性塗料の域を出ません。
それに対し水溶性溶剤塗料は、複数の水溶性溶剤と水を溶媒として使用し、塗料中にバランスよく配合しています。
それにより、油性塗料が持つ滑らかな仕上がりや付着性などの特長を損なうことなく、水で希釈できる塗料をつくることができます。
従来の塗料設計の視点を少しだけ変えることで、水性と油性それぞれのデメリットを解消し、メリットだけを残らず拾い上げることができる。それが水溶性溶剤塗料です。
油性を超えるハイブリッドな性能
例えば油性塗料は水性塗料に比べ、優れた付着性や、滑らかなレベリング性と光沢感、低温時の作業性といった大きなメリットがあります。そのため、住宅塗装では屋根や金属基材に多く採用されています。
水溶性溶剤塗料も油性並みのレベリング性を付与することができ、一般的な油性塗料の光沢度(80~)を上回る 85~88 の鏡面光沢を実現しています。
そして油性塗料と同じように各種付帯部への直接塗装も可能な付着性能を持っており、また低温貯蔵安定性においても、-5℃で18 時間を3サイクル繰り返しても変質しない高い耐寒性能も備えています。
※開発過程の試験です。結露や耐水白化などのリスクがあるため氷点下の施工は推奨しません。
高性能と低リスクを両立する水溶性溶剤塗料
油性塗料以上の性能を持つ水溶性溶剤塗料ですが、水性塗料の優れた特性も併せ持っています。
施工中も低リスク
水溶性溶剤塗料は水で希釈することができるうえ、施工中の臭気もほとんどありません。
そして油性塗料の施工中に起こりがちなリフティング※1やブラッシング※2といった不具合リスクもほとんどなく、水性塗料のメリットを残らず享受しています。
※1 リフティング:「チヂミ」とも言われ、油性塗料が下層塗膜を侵すことでシワができる現象
※2 ブラッシング:昼夜の温度差や結露を要因として、油性塗料の乾燥中に起こる艶引け
リフティングについては以下の記事で詳しく解説しています。

人と環境にも低リスク
また水溶性溶剤塗料は、 (一社)日本塗料工業会が規定する15の揮発性有機化合物 (VOC)も含まないため、消費者も施工業者も安心して施工できる、人と環境に優しい低VOC・低リスク塗料と言えます。
水溶性溶剤塗料は戸建て塗装の最適解へ
我々が製造する建築用の塗料はVOC発生源割合でトップを占めます。そのため業界では水性塗料の開発や普及に積極的に取り組んできました。
しかしながら、業界全体を俯瞰しても環境課題を見据えた水性化はここにきて大きく停滞しており、そこには油性塗料の特長を水性塗料が埋め合わせしきれていない現状がうかがえます。
この状況を鑑みるに、建築塗装における水性と油性の比率は今以上に大きく変化することはないと思われ、塗料のVOC排出課題を解決するためにも視点を変えたアプローチが不可欠でした。
水溶性溶剤塗料はまさに、住宅塗装の施工品質を大幅に向上させ、水性油性の議論や業界が抱える環境課題にまとめて決着をつける、新しいスタンダードとなるでしょう。
水性か油性か、答えの出ないその悩みに水溶性溶剤塗料が終止符を打ちます。