【塗り替え工事にも関係あり】知っておくべきアスベスト規制強化・法改正

外壁塗装

皆さんは「アスベスト」をご存知でしょうか?

アスベストは石綿とも呼ばれる天然に産出する綿状・繊維状の岩石で、「魔法の鉱物」と言われるほどの優れた特性から、防火や断熱を目的として建築物だけでなく様々な分野で使用されていました。

ところが、アスベストは飛散し吸入すると中皮腫(ちゅうひしゅ)や肺がんを引き起こす可能性が問題となり、1975年吹付けアスベストが原則禁止、以降法律の改正や規制の強化が行われ、2006年には一部を除き製造禁止に、そして2012年には完全に製造禁止となりました。

製造禁止になったものの、長らく多くの建材に使用されてきたため、改修や解体時にアスベストが飛散してしまう問題がいまだに続いています。

建材ではありませんが、最近では一部の珪藻土バスマットやコースターからアスベストが検出されたとして、自主回収を行ったニュースも記憶に新しいところです。

環境省では、建築物の解体によるアスベスト飛散(排出量)のピークを2020年~2040年と予想しており、各省庁はそれに向けた法改正・規制の強化を行っています。

今回は、2021年4月1日から順次施行されている石綿障害予防規則および大気汚染防止法等の改正について、施主と塗り替え工事に関わるものを中心に解説いたします。

アスベスト法改正の概要

今回の法改正のポイントは主に次の4点になります。順に詳しく説明していきます。

  1. アスベスト含有建材の規制対象の拡大
  2. 事前調査の信頼性確保
  3. 作業基準遵守の徹底のための直接罰の創設
  4. 作業記録の作成と保管の義務付け

1. アスベスト含有建材の規制対象の拡大

アスベストは発塵(はつじん)性(=粉塵(ふんじん)が発生するしやすさ)でレベルが定められており、レベルが小さいほど発塵性が高く危険とされています。

今回の法改正により、従来のレベル1、レベル2の建材に加え、レベル3建材も規制対象となりました。

レベル1:石綿含有吹付け材
レベル2:石綿含有断熱材・石綿含有保温材・石綿含有耐火被覆材
レベル3:石綿含有建材(成形板・仕上塗材等)

レベル1、2の建材は一般的な木造戸建住宅では使用されていないため、多くの塗り替え工事では影響ありませんでした。

ですが今回レベル3建材まで拡大されたことにより、住宅の塗り替えでもよく耳にする、化粧スレート屋根材、窯業系サイディング、ケイカル板、石綿含有仕上塗材(旧塗膜)などの建材も規制対象になりました。

2. 事前調査の信頼性確保

事前調査を実施しなかったり、不適切な調査によるアスベスト建材の見落としを防ぐため、事前調査の方法が法定化されました。

従来の規制対象のレベル1、2建材は塗装工事では関わりが少なく、事前調査を行うことは稀でした。

ですが、法改正によりレベル3建材が対象となったため、塗装工事でも事前調査が義務となりました。

ただし、既存の塗装の上に新たに塗装を塗る作業など、現存する材料の除去などを行わずに新たな材料を追加するのみの作業は事前調査の義務の対象外となります。

事前調査の方法

事前調査は、書面調査や目視調査、分析調査を必要な知識を有する者が行い、一定規模以上の工事は都道府県等に電子システムを使用し調査結果の報告をすること。また、調査に関する記録を作成し3年間保存することも義務付けられました。

2023年10月からは、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による事前調査が義務化されます。

事前調査結果の報告が必要な工事とは

塗り替えを含む改修工事の場合、レベル3建材を補修や改造などで、切る・削るといった手を加える作業が行われる場合、報告の義務対象になります。

また、請負金額が税込100万円を超える工事も事前調査結果の報告義務化対象です。

3. 作業記録の作成と保管の義務付け

レベル3建材を電動グラインダーなどの工具で削る、除去するなどの工事は、作業の実施状況を写真等で記録し、3年間保存することが義務づけられました。

除去後にはアスベストの取り残しが無いか、作業が完了したかどうか、有資格者が確認する必要があり、作業結果を施主(発注者)に報告する義務があります。

4. 作業基準遵守の徹底のための直接罰の創設

今回の改正で定められたルールを守らなかった施工業者や施主(発注者)に対しての罰則が設けられました。

報告義務対象の事前調査結果を報告しない、または虚偽の報告など、事前調査結果報告の義務に違反した場合は30万円以下の罰金となります。

工事の内容によっては施主(発注者)による事前の届出が義務となる場合もあり、届出を行わない、虚偽の届出を行った場合にも同様に罰則の対象となります。

アスベスト規制強化・法改正のこれからの動き

前章の通り、アスベストの規制強化や法改正は2021年4月より順次施行されており、解体工事も含めると多くの改正点があります。

塗り替え工事に関係する改正のスケジュールをまとめると以下の通りになります。

■2021年4月
・アスベスト含有建材の規制対象拡大
・事前調査方法の法定化
・直接罰の創設

■2022年4月
・事前調査結果の報告

■2023年10月
・有資格者による事前調査の義務化

アスベスト規制強化・法改正で施主が気をつけたい 3つのポイント

アスベストの規制強化や法改正にあたり、工事の発注者である施主が注意すべきポイントを3つ紹介します。

施主(発注者)にも義務が課される

工事の発注者である施主は、工事の際に自分自身だけでなく作業者や近隣住民に対して健康被害を及ぼす可能性があることを考え、事前調査が円滑に行えるよう、お住まいの設計図書(工事に必要な設計図や仕様書)を準備するなど、必要な情報を提供するよう配慮する義務が課せられています。

もし、アスベスト除去が必要になった場合には、工事費用や工期、作業方法など、法令を遵守して工事ができるよう配慮する必要があります。

ただし、基材や仕上塗材にアスベストが使用されていると判明した場合の改修でも、既存の材料に損傷を及ぼさない塗装やカバー工法であれば、届出や施工時の隔離、作業記録などは不要です。

しかし、今回の改正内容を含め、事前調査や届出等の石綿障害予防規則に規定する措置を怠った場合は罰則規定があるため、適切な対応をしていく必要があります。

事前調査結果の施主への説明の義務化

塗り替え工事の事前調査の場合、元請業者は施主(発注者)に対し、事前調査の結果を工事の前日までに書面によって説明する義務があります。

事前調査が実施された際は調査結果報告書の提出を求めましょう。

塗装業者選びにも注意

アスベストの有無を適切に調査し、法に則った工事ができる業者を選ぶために、次のことを確認しましょう。

見積りにアスベスト事前調査費用が計上されているか

木材、金属、石またはガラスのみで構成されているなど明らかに石綿が含まれないものや、既存の塗装の上に新たに塗装を塗る作業などを除き、事前調査は実施しなければなりません。

事前調査には費用が発生します。もし費用を計上していないのであれば、事前調査をしない、または法定化された通りに実施されない恐れがあります。必ず見積りを確認しましょう。

事前調査やアスベスト除去を行う資格を有しているか確認する

先に述べたように、2023年10月以降、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による事前調査が義務化されます。

本記事作成時(2022年5月)は必要な知識を有する者であれば調査可能ですが、有資格者による事前調査が望ましいとされています。

元請業者がアスベスト専門業者に事前調査や除去を依頼するケースも多いため、元請業者に有資格者がいなくても問題はありませんが、有資格者が所属していれば相談もしやすく依頼する際の安心材料にもなります。

アスベストが使用された外壁・屋根を塗装しても大丈夫?

事前調査で外壁や屋根にアスベストの使用が確認された場合「塗り替えをしても問題は無いのか?」と不安になる方もいるかもしれませんが、結論から言うと塗り替え工事は可能です。


アスベストが健康被害をもたらすのは、吸引してしまった場合です。

通常の塗り替え工事であれば飛散のリスクはほとんど無く、吸引の危険性も低いため、問題なく塗り替えを行うことができます。

ですが、劣化が進み塗装前の高圧洗浄でアスベストを含んだ基材表面が傷ついたり、既存塗膜が剥がれたりする場合は、アスベスト対策をしたうえで補修や張り替え、葺き替え工事が必要です。

おわりに

アスベストに関する規制強化や法改正について、住宅の塗り替え工事に関係する項目、そして施主が知っておくべきポイントについて解説しました。

今後の塗り替え工事では、アスベストへの知識や対策も必要になってきます。

今回の記事を参考にしていただき、アスベストの規制強化や法改正に対応した説明や事前調査を実施したうえで、工事をしてくれる塗装業者を探すことをおすすめします。