【塗料メーカーが解説】外壁塗装の水性塗料と油性塗料にまつわる誤解

【塗料メーカーが解説】水性塗料と油性(溶剤)塗料にまつわる誤解
塗料について
【塗料メーカーが解説】水性塗料と油性(溶剤)塗料にまつわる誤解

戸建住宅の外壁塗装に使われる塗料には「水性」と「油性(溶剤)」があります。

塗装業者から提案や説明を受けたものの、自宅の塗り替えにはいったいどちらの塗料を選べば良いのか、気になって調べている方もいるのではないでしょうか。

外壁塗装関連のサイトやコラムでも、水性塗料・油性塗料の違いやメリット・デメリットについて解説した記事は数多くみられますが、その中には誤解を招きかねない内容も多く見受けられます。

今回は水性塗料と油性塗料について、よくある誤解を解いていくと共に、結局どちらを選べばよいのか、製造する塗料メーカーの視点から解説いたします。

塗料の「水性」「油性」とは

本題に入る前に、塗料の「水性」「油性」について説明します。

外壁塗装や屋根塗装に使われる塗料にはさまざまな種類がありますが、全ての塗料は「水性塗料(水系)」と「油性塗料(溶剤系)」の2種類に分けられます。

塗料は主に「樹脂」「顔料」「添加剤」「溶媒」の4つの成分で成り立っていることは以前の記事でも説明しました。

顔料・樹脂・添加剤は液体でないため、塗料として塗るためにはそれらを溶かす(希釈または分散する)ための物質、「溶媒」が必要です。

水を溶媒として使用する塗料を水性塗料(水系塗料)、シンナーなどの有機溶剤を使用する塗料を油性塗料(溶剤系塗料)と呼びます。

油性塗料が「ニオイ(シンナー臭)が強い」と言われるはそのためです。

油性塗料には、溶解力の強いアクリルシンナー、ウレタンシンナー、エポキシシンナー等で希釈する強溶剤塗料と、比較的刺激の少ない塗料用シンナーで希釈する弱溶剤塗料の2種類がありますが、本記事では戸建住宅の塗り替えによく使われる弱溶剤塗料を指して説明いたします。

 

どちらを選んでも塗装工事の完成度には影響しない

先に結論を言ってしまいますが、現代の住宅塗装において水性塗料・油性塗料どちらを選んでも塗装工事の完成度には影響しません。

塗膜の性能や機能性は、溶解や分散を担っている溶媒の性状よりも、添加剤や顔料、樹脂などの固形分やそれらの配合処方などを含めたトータルバランスで決まります。

そして何より水性塗料・油性塗料問わず、塗装工事の完成度に求められるのは「状況に合った塗装仕様」と、「適切な施工」なのです。

 

建築用塗料の主流は水性塗料へ

水性塗料と油性塗料の使用割合

塗料・塗装白書2021年度版(コーティングメディア社)』によると、「建築用塗料を品種別で見ると、(中略)水系塗料で6割強を占めている。建築塗装現場は開放型のためVOCや臭気など、建物の住人や近隣への配慮から水系塗料が主流」となっています。

つまり、油性を使わざるを得ない環境や油性でも構わない場合を除き、建築塗料はすでに水性に置き換わっているのです。

では、残り3割強にあたる油性塗料はどこで使われているのかというと、実はその多くが低層住宅(戸建て)の塗り替え工事なのです。

学校や病院などの公共工事、あるいはビルや福祉施設、マンションといった大規模建築工事では、すでに設計段階から水性塗料での仕様が当たり前となっています。

それに対し戸建ての塗り替えは、規模が小さく求められる社会性も大きくないためか、水性仕様への転換が遅れていることが実情です。

公共工事をはじめ、民間のハウスメーカーやゼネコン、リフォーム会社などの企業が水性塗料を採用する背景には、カーボンニュートラルに向けたVOC削減などの環境対応やSDGsの後押しという側面ももちろんありますが、水性塗料の完成度の高さと高性能化という進歩なくしてはありえません。

カーボンニュートラル:二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量が実質ゼロ(人間が排出する量と植物が吸収する量等がプラスマイナスゼロ)の状態であること
 VOC(Volatile Organic Compounds)=揮発性有機化合物。ほとんどの有機溶剤に含まれており、環境や人体に悪影響を及ぼすと摘されている。

水性塗料の開発と進化

当初は頼りないイメージであった電気自動車(EV)も、ハイブリッド車の開発と普及を経て、今や未来有望な産業として投資家の注目を集めています。

脱炭素化が待ったなしの政策として強く推進されて以降、急速充電設備のインフラ拡充、さらなる航続距離の伸長など、官民一体となったEV産業開発は急速に進み、その一方でガソリン車は2030年代までに生産中止とする方針を日本を含む世界各国が表明しています。

自動車の燃料と同様、建築用塗料の歴史も油性から発展しているため水性は後発ですが、大気汚染や気候変動などの環境変化に大きな社会的責任を負う建築用塗料メーカーは、かなり以前から水性化の未来を見据えて製品開発を続けてきました。

前述の自動車産業に代表されるカーボンニュートラルと足並みをそろえるように、水性塗料の性能はあらゆる面で劇的に進化を遂げ、その一方で、油性塗料は削減や代替原料の開発に舵を切っています。

水性化に後れを取っている住宅塗装業界においても、塗装業者や施主の理解が進めば一気に変革を果たすことは間違いありません。

脱炭素化:温室効果ガスである二酸化炭素の排出を実質ゼロにすること。

 

水性塗料・油性塗料にまつわる誤解

このように、建築塗装の主流は水性塗料へとすでに移り変わっています。

にも関わらず、私たちメーカーのもとには「塗装業者から御社の水性塗料を提案されたが耐久性は大丈夫なのでしょうか?」という施主からの問い合わせをいただくことがあります。

施主がそのように不安がる理由の一端に、冒頭で述べたインターネット上に溢れる水性塗料・油性塗料に関するさまざまな情報があります。

「屋根には油性」という伝説

「屋根塗装は油性塗料がオススメ」「水性塗料は屋根塗装には向かない」という記事を見たことある方もいるのではないでしょうか。

実は水性塗料が主流となった現在でも、戸建住宅の屋根塗装には今だ油性塗料が採用される傾向にあります。

水性塗料開発の黎明期である今から30年ほど前、大手メーカー各社は我先にと水性塗料の開発と普及を急ぎました。

その当時、屋根塗装に水性塗料を使い早期退色や積雪による軒先の剥離などを経験した職人たちが、「水性塗料は弱い」という固定観念を現代においても持ち続けており、育成する若い後進にも語り継がれています。

適切な下塗り塗料も揃っておらず現場管理も徹底されていなかった時代の水性塗料の不具合が、経験豊富な職人が語る「伝説」として言い伝えられ、現代までその名残をとどめているのです。

 

水性塗料・油性塗料に関する誤解を招きやすい情報

その他にも、水性塗料と油性塗料については、固定観念や俗説がもたらす誤解を招きやすい情報があります。

水性塗料は雨が多いと塗りづらい

降雨、または降雨が予想されるタイミングでの塗装は水性塗料であっても油性塗料であってもNGです。

水性塗料は水で希釈しますので、硬化途中に降雨があれば当然流されてしまいますが、油性塗料も水分と反応しやすい設計の製品が多く、硬化不良や白化などのトラブルの大きな要因となります。

 

油性塗料は低温でも施工できる?

これこそが前述の寒冷地での施工に使われている一因と思われますが、水性塗料・油性塗料に関わらず塗装に適した環境条件は気温5℃以上、湿度85%以下です。

条件から外れても絶対に施工できないというわけではありませんが、不具合リスクが高くなるため、十分な工程間隔や適切な乾燥養生など、より一層の技術と配慮が求められます。

 

油性塗料は密着力が強い

塗料そのものを単純比較すれば水性塗料よりも油性塗料、1液よりも2液のほうが被塗面に対する直接的な付着力は上です。

ですが、屋根や外壁を塗装する際には、必ず基材に適した下塗材で処理されます。

きちんと仕様通り施工を行えば水性塗料も油性塗料も塗膜の剥離が発生することは非常に稀です。

保護の重要性が低い雨樋などの付帯部は下塗材を入れずに上塗材を直接塗装するケースも多いので、そのような場合には油性塗料をおすすめします。

 

同じメーカーの製品カタログを比較すると水性シリコンより油性シリコンのほうが耐候性試験結果が良い

同じメーカーが発売している塗料であっても、両者は「異なる塗料」です。

開発時の設計目標は製品によって違いますので、単純に比較することはできません。
促進耐候性試験の結果を見て、「これは水性塗料だから、これは油性塗料だから(こういう結果になるんだ)」という解釈は全くの見当違いです。

 

使いなれているから間違いがないという「思い込み」

住宅塗装の現場では「うちは昔からずっと使い慣れたこの塗料しか使わないよ」というこだわりで、同じ油性塗料製品だけを使い続ける職人さんもいらっしゃいます。

でも実は、製品名の同じ息の長い塗料であっても、中身はマイナーチェンジを繰り返しています。

現場の声を反映させたり、コストダウンの必要性に迫られたり、新たな原料資材の出現や廃止によっても、流通に影響がでない範囲で日々改善努力は続けられているのです。

 

水性塗料と油性塗料、結局どちらが良いのか

ここまで述べたように、仕様上求められる環境条件は水性塗料も油性塗料も同じであり、今や油性塗料を選ぶ理由はなくなってきています。

それでもまだ悩まれている方のために、住宅塗装におけるそれぞれの塗料の一般的な特性を少しご説明します。

 

不具合事例は水性塗料のほうが少ない

現場の条件に特に制約がない場合、施工業者からの不具合相談が比較的少ないのは水性塗料です。

水性塗料は油性塗料に比べて臭気による近隣からのクレームもほとんどありません。

水性塗料は計量や硬化剤との配合混練が不要な1液タイプが多いうえ、油性塗料よりも膜厚が付きやすいので、施工品質を均一に保ちやすい傾向があります。

また、油性塗料特有のリフティング(塗膜の縮み現象)や、溶解力で下地を侵したりするリスクもありません。

これらの利点が現場管理を比較的容易にし、結果的に不具合リスクの低減やスムーズな施工につながっていると考えます。

 

レベリング性や艶感に優れた油性塗料

一方の油性塗料は水性塗料では出しにくい有機濃彩色(赤、青、黄など彩度の高い色調)でも調色できる範囲が広いため、アクセントカラーや店舗塗装などでは重宝します。

また、表面平滑特性も高いため、ローラーや刷毛でも比較的フラットに仕上がりやすく、見た目の艶も高く感じることができます。

弊社製品の有機HRC樹脂塗料「タテイル2」は、油性塗料の中でも今までにない抜群の艶感と仕上りのため、施工業者からもお施主様からも高い評価をいただいています。

 

樹脂だけの比較では水性塗料の方が有利

ここまで述べてきたように、塗膜の性能は樹脂や添加剤、色調や施工条件など様々な要素によって決まりますが、樹脂だけの比較であれば、溶剤系樹脂よりも水系エマルション樹脂のほうが分子量が高いため、耐候性に関しては有利です。

油性塗料に2液型が多いのは分子量を高めるためですが、現場での配合や混錬が不適当であれば十分な性能を発揮できないのは言うまでもありません。

 

おわりに

住宅塗装における水性塗料・油性塗料について塗料メーカーの視点から解説しました。

かつては油性塗料のほうが設計の自由度が高い傾向にはありましたが、自動車、工業、建築などの各塗料分野において水性塗料が目覚ましい進化を遂げていることは間違いありません。

水性塗料・油性塗料どちらを選ぶかは、思い込みや固定観念、現場や工期の都合で選択されるものではなく、環境配慮や適材適所を踏まえたうえで、施主の意向や現場に合った塗装仕様に落とし込むことが重要です。

弊社へ塗装仕様の相談をいただく際にも、状況に合わせた仕様提案と情報発信をしています。

大切なお住いに合う納得した塗料で満足のいく塗装工事を行っていただくためにも、不安や疑問があれば遠慮なく私たちメーカーにお問い合わせください。