外壁への遮熱塗料はホントに効果あり?塗料メーカーが解説!

塗料について

昨今ニュースや新聞などで全国規模の節電要請を耳にするようになり、省エネや節電を意識することが増えてきました。

また電気料金の高騰や異常気象とも言える夏の暑さもあり、遮熱塗料での塗り替えを検討されている方も多いのではないでしょうか。

塗膜表面の温度上昇を抑える効果が期待できる遮熱塗料ですが、「屋根だけでなく外壁にも遮熱塗料を塗ってより快適に過ごしたい」という要望をされるお施主様もいらっしゃいます。

外壁の遮熱塗装においても、屋根同様の効果は発揮されるのでしょうか。
今回は塗料メーカーの視点から、その答えについて解説します。

遮熱塗料とは

まずは遮熱塗料の概要について簡単に解説します。

遮熱塗料は高日射反射率塗料とも呼ばれ、太陽光に含まれる近赤外領域(物質を加熱する作用がある、温度上昇の原因となる波長)を反射し熱を発生しにくくさせることで、塗膜表面温度の上昇を防ぎます。

大手塗料メーカーの試験では夏の屋根表面温度が10℃以上、最大で20℃ほど低下したデータもあり、遮熱効果があることが実証されています。

遮熱塗料の原理とは

次に遮熱の原理について解説します。

屋根や外壁に使用される一般的な塗料には、黒色を出すためにカーボンブラックという顔料が使用されています。

このカーボンブラックは、塗料のどんな色にもほぼ使われる基本的な顔料のひとつですが、近赤外領域の光=熱を吸収しやすい性質を持っています。

そのため遮熱塗料はこのカーボンブラックを使わずに、日射反射率の高い特殊黒顔料や複数の顔料を混ぜて黒に近い色にすることで遮熱効果を実現しています。

カーボンブラックを使わないことによる弊害も

その一方で、カーボンブラックを使用していないことから生じる弊害もあります。

カーボンブラックは非常に耐候性が高く、塗料だけでなく耐候性の求められる樹脂の着色などにも利用されています。

対して、特殊黒顔料や混色での黒ではカーボンブラックほどの耐候性が得られないため、一般塗料よりも変退色が早く進んでいきます。

遮熱塗料は外壁の塗装にも有効か

遮熱塗料の概要について解説しましたが、それでは、遮熱塗料は外壁の塗装においても本当に有効なのでしょうか?

結論から言うと、屋根に比べると外壁への遮熱塗料の塗布に大きなメリットは望めません。
その理由について3つ紹介します。

1. 太陽の角度が季節によって異なる

1つ目の理由として、太陽の日射角度は季節によって異なることが挙げられます。

遮熱塗料に効果を発揮してほしいのは夏の暑い時期ですが、弊社のある東京周辺を例にとると夏至の南中高度は78°にもなり、下図の通り一般的な軒や庇のある住宅では太陽光はあまり外壁に当たりません。 

夏の暑い時期を通して考えても南中高度(太陽が真南にきて一番高く上がったときの角度)は60°~78°です。

つまり、日中の日差しが強い時間帯でも外壁への日射は少ないため、日射反射が目的である遮熱塗料の効果は発揮しづらくなります。

ちなみに札幌の夏至の南中高度は約70°、鹿児島では約82°となりますが、軒や庇の長さや傾斜はそのような地域性も考慮し設計されているため大きな差にはなりません。

2. 色の明度によって日射反射率が異なる

2つ目の理由は、色の明度によって外壁の日射反射率が異なることです。

明度とは色の明るさ度合いを表し、白が最も明度が高く、黒が最も明度が低くなります。
明度が高いほど日射反射率は上昇し(=遮熱効果が高い)、明度が低いほど日射反射率は低下します。

そのため黒や濃色の遮熱塗料よりも、明度が高い一般塗料の白の方が日射反射率はより上昇します。
つまり、色によっては一般塗料の方が遮熱塗料よりも遮熱効果が高いということになります。

「本当に?信じられない」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。

しかし、性能評価試験によって実証されており、また塗装業者にも知識や経験から広く知られています。
参照 :(一財)日本塗料検査協会「太陽熱高反射塗料の性能評価(第10報)」

外壁塗装の人気色は明度が高い色が多い

屋根に比べると外壁は総じて淡彩色で塗装されることが多いですが、外壁塗装の人気色は

  • グレー
  • ベージュ
  • ブラウン
  • ホワイト

となっており、実に塗り替えにおける外壁の色選択の約3分の2を占めています。

これらの色は明度が高い色が多く、つまり日射反射率が高い色でもあります。

もし、外壁の塗り替えにこのような淡彩色を選べば、遮熱塗料でなくても塗膜表面の温度上昇を抑えることができます。

3. 戸建て住宅の構造

そして3つ目の理由は、現在の戸建て住宅には断熱材が使用されているためです。

そもそも遮熱塗料が効果を発揮しやすいのは、断熱材が使用されていない鋼板の工場やプレハブ小屋であり、遮熱塗料の試験や検証データもそのような特定の条件下での結果がほとんどです。

対して、現在の住宅の外壁にはしっかりと断熱材が使用されています。
断熱材の遮熱効果を考えると、はたして本当に遮熱塗料は必要でしょうか。

遮熱塗料の効果はどのくらい?

塗り替えを考えている施主が遮熱塗料に期待することは、「夏を涼しく過ごしたい」「電気代を節約したい」という性能面でしょう。

では実際に、遮熱塗料による効果はどれくらいのものなのでしょうか?

実は遮熱塗料で室内温度が何℃下がるかというのは、住宅の断熱性能によって大きく違うため明確には出ていません。

大手塗料メーカーのQ&Aでも室内温度の低下は「構造によって異なります」「体感できる場合もありますが、体感温度の感じ方は個人差があります」という回答に留まっています。
参照 : 日本ペイント株式会社 「遮熱の賢人」

また、大手建材メーカーからは、「夏の住宅の熱流入は70%近くが窓などの開口部から」というデータが、そして「外壁からの熱の流入は12%」という数字も出ており、これは元々住宅の持つ外壁の断熱効果が高いことを示しています。
参照 : YKK AP株式会社 「夏の暑さをやわらげる窓」

遮熱塗料で外壁の表面温度を下げても、「思ったほど室内が涼しく感じない」という声が聞かれるのもそのためです。

そのような遮熱効果が実感しにくいという意見や、先に述べた耐候性の不安もあってか、遮熱塗料の出荷実績は伸び悩んでいる傾向にあります。

遮熱塗料の効果があるケースとは

外壁では遮熱塗料の効果は実感しづらいことを説明しましたが、建物によっては遮熱塗料の効果が得られやすいケースもあります。3つご紹介します。

1. ガルバリウム鋼板などの金属サイディングの場合

1つ目は、建材にガルバリウム鋼板などの金属サイディングを使用している場合です。

金属は他の基材よりも熱を通しやすく温まりやすいため、太陽光を反射する遮熱塗料の効果が得られやすくなります。

2. 軒や庇の無い場合

2つ目は、軒や庇の無い住宅の場合です。

最近では、より広い居住面積の確保や外観のシンプル化を優先した、軒や庇が小さい・あるいは全く無い住宅も見られるようになりました。

ですが、軒や庇は雨だけでなく、強い日差しからお住まいを守る役割があります。

そのような住宅の場合、太陽光を遮るものがないため、通常よりも遮熱塗料の遮熱効果が発揮されやすくなります。

3. 外壁が濃色の場合

そして3つ目は、外壁が濃色の場合です。

車で実感している方も多いと思いますが、夏の日差しが強い日は、黒い車と白い車では乗りこんだ時の車内の暑さが大きく違います。

これは先に述べたように、明度が低い黒の方が日射反射率が低くなるために起こります。

高級感やモダンな雰囲気を演出した濃色の住宅は以前より増えています。

外壁を濃色で塗り替えたい場合は、日射反射率が少しでも高くなる遮熱塗料の方が効果は得られやすいでしょう。

遮熱塗料を使用するなら保護コーティングがおすすめ

先にも述べたように、遮熱塗料は遮熱性能を付与する代わりに耐候性が低下する側面があります。

仮に遮熱効果が発揮され電気代が安くなっても、次の塗り替え時期が早まってしまうのではコストパフォーマンスが良いとは言えません。

その解決策として弊社では、遮熱塗料の上から透明な保護コーティングを施し、耐候性の低下や変色退色のリスクを軽減できる4工程塗装をおすすめしています。

4工程塗装の詳しい内容はこちらで紹介しています。

おわりに

今回は外壁への遮熱塗料が有効かどうかについて解説しました。
外壁でも効果が得られやすい場合もありますが、遮熱塗料の効果だけに期待しすぎるのも良くありません。

「エアコンがいらなくなります」「光熱費が〇%下がります」などの明らかな誇大広告や甘い言葉に惑わされないよう、遮熱塗料のデメリットも理解しておくことが重要です。

「耐候性なのか機能性なのか」「直近の費用なのか将来的な費用なのか」など、外壁塗装への要望は人それぞれです。

自身が求めることを明確にし、施工業者にすすめられるままではなく、大切なお住まいに合った塗料選びをしていただければと思います。

遮熱塗料については以下の記事でも取り上げており、主に遮熱塗料の評価基準や原理、遮熱塗料が抱える不安、そしてその不安を解決する方法などについて解説をしています。

さらに知識を深めたい方はぜひこちらもお読みください。